/skraɪb/ ： 《名詞》 筆記者, 書記; 写本筆写者

概要
「スクライブ」はカリフォルニアのニュー･ウェイヴと呼ばれる、少量生産でアーティスティックな感性を基に自然を意識して造られるワイナリーです。ナッツを栽培している農家出身の若い兄弟が造る90年代のカルトスタイルに影響されていないスタイルです。畑は全て有機栽培で、強い樽香や高いアルコール度を避け、「ワイン造りは農業」と言う信念の下、天然酵母による発酵を実践しています。有機野菜を使うカリフォルニア･クイジーンの先駆け「シェ・パニース」のアリス･ウォーターとの繋がりも強く、新進気鋭の若手シェフらとのワインディナーも注目を浴びています。

歴史
スクライブ・ワイナリーの中央にある、ハシエンダ（Hacienda）と呼ばれるミッション・リヴァイヴァル風の建物は、スクライブを語る上で欠かせない場所です。

100年前に建設されたこのハシエンダは、禁酒法前に一世を風靡したドレッセル・ワイン・カンパニー（The Dresel Wine Co.）の設立者の居住地だったのです。スクライブのワインのラベルにある「D&CO」はこのドレッセル・ワイン・カンパニーの頭文字なのです。

ドレッセル・ワイン・カンパニー時代
時代をさかのぼり、1858年、エミル・ドレッセル（Emil Dresel）が富を求めてドイツからカリフォルニアにやってきました。ドイツ人の3人の仲間と共に、ソノマに400エーカー（およそ160ヘクター）の畑を購入し、ドレッセル・ワイン・カンパニーを設立します。

この畑にドイツから密輸したブドウの樹を植えるのですが、これが後に、歴史上始めてアメリカに輸入されたリースリングとシルヴァナーの樹であると判明しました。

1869年、弟のジュリアス（Julius）が経営に加わり、彼の名前は良くも悪くも世に知れ渡ることとなります。ワイン業界のリーダー、ブドウ栽培学の先駆者､廃止論者、勝負師、地主、そして無法者として・・・

1878年にフィロキセラがカリフォルニアを襲いますが、ジュリアスはカリフォルニアで始めてフィロキセラに免疫を持つ台木（ヴィティス・リパリア）に接ぎ木をしたと言われています。また、ワインのラベルにセミヨンやカベルネ・ソーヴィニヨン等の品種を記載するという、現在のカリフォルニアワインでは当たり前の事も、このジュリアスが始めたと言われています。

その後、数々のワイン・コンクールで賞を総なめにします。

• 1904年 ワールズ・フェア（World's Fair）白ワインと赤ワインが共に1位
• 1915年 パナマ・パシフィック・エキスポジション（Panama-Pacific Exposition）では、シルヴァナー（Sylvaner）、クラインバーガー・リースリング（Kleinberger Riesling）そしてトラミナー（Traminer）が金賞を受賞

しかし、1920年の禁酒法によりワイナリーは廃業。その後、ドレッセル・ワイン・カンパニーで合法的にワインが造られる事はありませんでした。

禁酒法時代のドレッセル・ワイン・カンパニー
ジュリアスが居住地としていたのが、現在のスクライブ・ワイナリーの中央に位置するハシエンダと呼ばれる建物です。このハシエンダは禁酒法時代に、無法者や文化人等が集う、スピークイージー（Speakeasy）として存在しました。選ばれた者のみが来る事ができる、隠れ酒場のような存在だったのです。

禁酒法が廃止され、スピークイージーとしてもさびれはじめたハシエンダは、1939年にニコラス・ターキー・ファームス（Nicholas Turkey Farms）に売却され、半世紀近くに及び、ここは大手の養鶏場として存在しました。

その後ニコラス・ターキー・ファームスがウェスト・ヴァージニアに移転し、様々な廃棄物、瓦礫や残骸を残して、ハシエンダは何十年もの間、だれも近寄ることない廃墟となるのです。

スクライブ・ワイナリー誕生へ
2007年、それまでワインとは無関係の国際貿易の仕事をしていたアンドリュー・マリアーニ（Andrew Mariani）が弟のアダム（Adam）と共に自分たちのワイナリー設立に物件を探していました。このマリアーニ兄弟こそ、後にスクライブのオーナーとなるわけです。彼らは始めてこのハシエンダを訪れ感動します。

「ここが最初に見た物件だったんだが、一目惚れしてね、真っ先にここに決めたんだ。」

今のスクライブ・ワイナリーからは想像できない程、土地も建物も荒れ果てた状態であり、誰もがここにワイナリーを設立することを考えもしない、酷い状態でした。

マリアーニ兄弟はまず、土地の生態系を取り戻すことから手をつけ、全面的に消毒が必要だった養鶏場の残骸を撤去し、丘の斜面と傾きが一目見ただけで分かるまで原型を取り戻すことに成功しました。その後、毒性のウルシや、ブドウの害になる植物を撤去し、たんぽぽやコスモス、その他野菜を植え、健全な生態系に欠かせない昆虫が好む環境を作ります。

こうしてスクライブ・ワイナリーとそのハシエンダはマリアーニ兄弟によって息を吹き返し、100年前にジュリアス・ドレッセルが築き上げた栄光を取戻しつつあります。

スクライブの畑は全て有機農法で栽培され、この土地が生み出す天然酵母から造られます。ワインは土地の個性を最大に反映させ、強い樽香や高いアルコール度を避け、ピュアなワインに仕上がります。

ワイン造りは農業であると考える彼らが、スクライブに求めている事、それは彼らのワインが人々の出会いを演出すること。それから、このハシエンダという場所が、ワインを造る場所だけで終わらず、禁酒法時代のスピークイージーのような、人々が繋がるステージになること。

100年前にドレセル家の住居として使われていたこのハシエンダは、現在ではワイナリーのテイスティング・ルーム、そして著名人やアーティストが集い、スクライブのワインを通じて人々が繋がることができるイベント会場として生まれ変わり、新しい歴史を刻み始めたのです・・・